大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(う)1148号 判決

記録によれば、被告人は、昭和五七年二月九日警察官から職務質問を受けたさい覚せい剤使用を認め、任意に提出した尿中から覚せい剤が検出されたものの、身柄を拘束されないまま生活していたところ、同年四月四日に至り、右覚せい剤使用の被疑事実により通常逮捕され、同月五日尿を任意提出したこと、右尿について鑑定を嘱託された警視庁科学捜査研究所主事阿部猛が鑑定を行なつた結果、右尿中からフエニルメチルアミノプロパンが検出されたとする同月七日付の鑑定書が作成されたこと、右鑑定書及び原審証人阿部猛の供述によれば、同人の右鑑定の経緯・方法については、被告人の尿約七〇ミリリツトルから透析膜法により得られた抽出物について薄層クロマトグラムを作成し、フエニルメチルアミノプロパンのスポツトと同一部位について呈色反応検査をしたところ、シモン試薬に対し青藍色、ホルマリン硫酸試液に対し赤味のこい橙色というフエニルメチルアミノプロパンの存在を示す特異な反応があり(なお、風邪薬中に含まれるメチルエフエドリンは、シモン試薬には発色しないし、ホルマリン硫酸試液には若干の橙色の発色があり、明らかに右フエニルアミノプロパンの呈色反応と異なる)、さらに前示抽出物を薄層クロマトグラフイーで分離したのち、トリフルオロ酢酸誘導体を作成し、ガスクロマトグラフイー質量分析(ガスマス法)を行なうとフエニルメチルアミノプロパントリフルオロ酢酸誘導体から得た結果に一致したため、結局、右尿中にフエニルメチルアミノプロパンの存在を確認したというものであることが明らかである。

ところで、所論は、シモン試薬及びホルマリン硫酸試液による呈色反応に用いる試料の反応確認限界(測定必要最少量)は、一般に五マイクログラムとされているのに、本件鑑定で用いられた試料はいずれもせいぜい〇・五マイクログラム程度であつたから、右鑑定の信頼性が乏しく、市販の風邪薬中に含まれているエフエドリン誘導体との区別も困難であるという。

たしかに、右鑑定においては、第三段階の検査として、試料量が少なかつたため赤外線吸収スペクトル検査を選択せず、微量でも検査可能な前示ガスマス法を採用したことが認められるほか、第二段階の呈色反応検査のための必要最少量(呈色感度)は約五ないし一〇マイクログラムとする文献も存在するのに対し、右阿部の供述中には、本件ガスマス法に用いた試料量は〇・五マイクログラム位であり、呈色反応検査前の元の試料はその三倍位であるとの部分も存在する。しかし、他方、同人は、呈色反応のための必要最少量は、五ないし一〇マイクログラムでは多すぎると明言し、文献によつては一マイクログラムと書かれているものもある旨、また本件試料についての前示数量は測定した数値ではないため明確ではなく、本件呈色反応検査に用いた試料量もわからないと述べているほか、本件呈色反応検査での発色状況は色の限界域というのではなく、明確に確認できたというのであるから、同人の供述の趣旨は、本件試料量の正確な数量は不明であるものの、呈色反応検査に必要な量は存在していたというものであると認められる。以上のほか、同人が覚せい剤の尿鑑定を三千数百件も担当した経験のあるベテランの技術者であることをも合わせ考えると、被告人の尿からフエニルメチルアミノプロパンを検出したという阿部鑑定の信頼性については特に問題がなく、十分に信用することができると認められる。被告人は、原審公判で、三月下旬から四月初めころ風邪薬を一回服用した旨供述するけれども、検察官の取調べではこれを否定する供述をしていたうえ、仮にそのころ風邪薬を服用したことがあつたとしても、右鑑定においては、当然風邪薬中に含まれるとされるメチルエフエドリンの反応状況との相違点も確認し得たと認められるから、同鑑定が風邪薬中の成分をフエニルメチルアミノプロパンと誤認したとは考えがたい。

さらに、右阿部供述によると、同人は覚せい剤施用後二〇日後に覚せい剤が検出された例は聞いたことがあるけれども、一か月以上経て検出された事例は聞いたことがないというのであり、これに司法警察員仁王勝雄外二名作成の昭和五七年四月一九日付余罪捜査報告書(「覚せい剤の尿中への排泄経過日時についての実験報告」と題する書面添付)の内容を合わせ考えれば、二月七日に施用した覚せい剤成分中のフエニルメチルアミノプロパンが四月五日まで被告人の身体中に滞留していたため鑑定により検出されたとする可能性は全くないといわなければならない。

以上によれば、被告人が三月下旬ないし四月四日までの間に覚せい剤を施用して使用したことが十分に認定でき、これを否認する被告人の弁解は採用することができない。論旨は理由がない。

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